3月のマンスリーシアター

「純情篇」「奮闘篇」そして「寅次郎恋歌」、トラトラトラなんちって・・・
ちょっと油断しているとマンスリー・シネマの原稿、寅さんが書けていな~い!
・・・と言ったって「寅さん」が3本? 同じようなもんじゃないの?
Non,non,non,なめちゃいけません。たかが寅さん、されど寅さん。
11月マンスリーから断続的にお目見えの寅さん、第6作からの3作品にあたり、
シリーズが予想を超える人気を背景に、次々と本数を重ねる時期に入ってゆきます。
この時期、長く続くシリーズの中でも繰り返し登場する人物やエピソード・ギャグ等が、
あちこちに登場してきます。と同時に、ゲスト俳優やヒロインの幅も広がり、
「恋歌」では上映時間も長い一本立ても想定された作品に格が上がった感もあります。
この3作で私の個人的なポイントは、
「純情篇」森繁久彌の渋~い客演と一味違うクールなマドンナ像だった若尾文子、
「奮闘篇」障害を持つ異色のマドンナ榊原るみ、
そして「寅次郎恋歌」博の父親役志村喬のいぶし銀といった感じ。
あと忘れちゃいけない森川信、
とらやのおいちゃん役のこの名優は1972年亡くなったのでここで交代となる。
3人のおいちゃん役者(あと二人は松村達男と下條正巳)は,
比べてみるといずれも驚くほど性格も表現方法も違うおいちゃんを演じているが、
私のご贔屓は森川おいちゃんだった。
もともと軽喜劇の人だったので、ちょっとした仕草や台詞回しがどうにも可笑しい。
ゆかいなキャラクターが絶品で、
名台詞「バッカだねぇ…」は初期寅さんの代名詞でもあった。
私なぞ、森川信もう一つの当たり役であるサザエさん一家の磯野波平に至っては、
アニメのキャラが原作より森川に近づけていた気がするのだが。・・・話が逸れた。
さっき『格』と言ったけど、
この頃の邦画では上映時間90分未満と以上で厳然と作品の扱いが違ってくる。
宣伝広報も興業上も単独に扱える内容としてのランクがあがると同時に、
寅さん映画も単なる『喜劇』以上のモノになりはじめる。
寅さんのフラれ方ひとつとってみても、
この後シリーズ初期のような勘違いのドタバタ大騒ぎというのは影を潜め、
寅次郎の流浪の人生の悲哀を含めた複雑なものへと変化してゆく。国民の大半が,
喜劇よりも悲劇の方を上等だと思い込んでいる国では仕方ない事かも知れないが、
「純情篇」で客演した〝喜劇出身の名優〟という道の直系の先輩・森繁久彌の背中を、
渥美清本人はどう見ていたんでしょうね。
「寅次郎恋歌」ではもう一つ、おなじみ坂東鶴八郎一座が初めてお目見えする。
今作のマドンナ池内淳子は明確に寅を振る訳ではないのだが、
苦境のヒロインをろくに助ける事も出来ない不甲斐なさと、
彼女の住む世界と我が身の落差を感じた寅さんの方が勝手にヘコんでしまう。
ラストの何とも言えない味わいを引き受けるこの旅役者の一座のエピソードは、
だんだん笑いっ放しのコメディではいられなくなってきたシリーズを,
まさに風の様に吹き抜けてゆく。
座長役の吉田義夫(TVドラマ悪魔くんの初代メフィスト!)と娘役は,
この後何度もシリーズに再登場する事になるが、
それもこの爽やかなラストシーンが忘れ難かったからだろう。
こうした豊かな脇役陣、単なるゲストに収まらない個性的客演などが,
シリーズの長期化へ向けて充実してゆく。
マンスリーシネマではシリーズ全作制覇目指して、
引き続き「男はつらいよ」を紹介して参ります。